扁桃(口蓋扁桃)とは
摘出する「扁桃」は、正確に言えば「口蓋扁桃」であり、俗に言う「扁桃腺」のことを指す。いわゆる "のどちんこ" の両脇にある。(c) health.merrymall.net |
- 赤く腫れている
- 膿んでいる
- 癒着している(こびりついている)
腎臓の病気なのに、なぜ口蓋扁桃を摘出するのか
結論から言うと、口蓋扁桃がIgA腎症の病巣となっているからである。そんなことを言われても、俗に言う扁桃腺のことだ。腎臓の病気であるIgA腎症とは何の関係もないように思える。いや、むしろそれは至って自然なりリアクションだ。ましてや、扁桃腺を腫らして風邪をひくことがめったになければ、なおさらそうである。ウエちゃんも実際にそうだった。しかし、実は大いに関係があったのだ。
「身体のどこかに限局した慢性感染病巣(原病巣)があって、それ自体は無症状か軽微な症状を呈するに過ぎないが、しかしこれが原因になって原病巣とは直接関係のない遠隔の諸臓器に反応性の器質的あるいは機能性の障害を起こす病像、いわゆる二次疾患をさす」と病巣感染は定義されています。簡単に言うと、どこかに感染巣があって、それがもとで感染巣とは関係がないところに病気が生じるということです。慢性扁桃炎とIgA腎症はこの関係にあるといえるでしょう。(引用元:1.「病巣感染」、その概念と歴史|IgA腎症根治治療ネットワーク)つまり、昔のTVコマーシャルのフレーズを借りれば、「くさいニオイは、元から絶たなきゃダメ!」というわけ。
ちなみに、この「病巣感染」。口蓋扁桃以外にも鼻や歯などが挙げられ、これらもIgA腎症の病巣になっているケースが少なくないという。多くは自覚のない鼻の炎症や虫歯・歯周病なども、あわせてチェックしておいたほうがよい。
病巣感染の好発部位は扁桃、副鼻腔、鼻咽腔、および歯科領域です。これらの場所は私たち人間にとり空気と食物の入り口に位置し、病原菌などの抗原に最も暴露され易い部位です。その中では扁桃に関連した研究の蓄積が最も豊富で、多くの二次疾患と扁桃が関係していることが報告されています。(引用元:「2. 病巣感染の好発部位」|IgA腎症根治治療ネットワーク)
本来カラダを守ってくれるはずの扁桃が、腎臓を攻撃!?
口蓋扁桃は、外界から侵入してくるウイルスや雑菌などから人間のカラダを守るバリヤーの役割を果たしている。それが本来の姿だ。しかし、その口蓋扁桃がそういった侵入物を撃退すべく攻撃しているうちに、生体の免疫異常を引き起こして、気がつくと勢い余って自分のカラダを攻撃してしまうことがあるらしい。つまり、口蓋扁桃がいつの間にか病巣に変身してしまうというわけだ。IgA腎症は、まさにその典型的な例で、病巣となった口蓋扁桃から送り込まれてくる免疫グロブリンA(IgA)が腎臓の組織(メサンギウム)に沈着して、くすぶり形の糸球体毛細血管炎を併発すると、糸球体毛細血管の壁が断裂することによって血尿が生じる。そんなメカニズムのようだ。
そこで、IgA腎症の病巣になっている口蓋扁桃を摘出して、炎症の元を取り除こうというきわめてシンプルな発想である。
扁桃摘出手術の内容と目的、その必要性
- 病名(病状):慢性扁桃炎
- 手術術式(処置)名:両側口蓋扁桃摘出術
- 手術(処置)の内容と目的、その必要性:IgA腎症の進行防止
- 麻酔について:全身麻酔
- 手術(処置)に伴う危険性と合併症及び予後:(1)別紙 (2)全身麻酔一般の危険
- 手術(処置)しない場合の予後:IgA腎症の進行
扁桃摘出手術の基本的な流れ
では、ウエちゃんが術前診断および手術前に受けた説明の中から、扁桃摘出手術の主なポイントを実際の流れを追いながら挙げてみる:入院前
- 常備薬: 抗血栓薬、抗血小板凝集薬(血液をサラサラにする薬)の服用をストップ(出血のコントロールや止血に支障が生じるため)
- 例: コメリアン錠、バファリンなど
- 禁煙: 手術後に痰が多く出て、傷にひびいたり、肺炎を起こしやすくなるため
- 持ち物準備: バスタオル、ティッシュ 1箱、コップ・箸類、常備薬など
入院日~手術前日
- 検査: 身長・体重の測定、血圧・体温・脈拍などをチェック、蓄尿開始
- 処置: うがい(毎食後、寝る前)、ネブライザー(吸入:1日1回)
- 診察: 執刀医による前日チェックと手術の説明
- 食事: 21時以降、絶食(水・お茶のみ可)
- 安静: 制限なし
- 入浴: 可能
- その他: 内服薬、麻酔の説明など
手術当日:手術前
- 洗面: 歯磨き、髭剃り(特に、口の周囲は手術中にテープを貼ったりするため)
- 食事: 11時以降、完全に絶飲食(それまでに水分は十分にとっておく) * 手術開始予定時刻により異なる
- 処置: ネブライザー(吸入)、血栓による合併症予防のストッキング着用
- 診察: 執刀医による前日チェックと手術の説明
- 安静: 制限なし
- 入浴: 可能
- その他: 金属類(時計、指輪、ピアス等)やメガネ、コンタクトレンズ、入れ歯を外す
手術
- 30分前に担当看護師と一緒に手術室へ移動
- 手術室に入室後、ベッドで血圧、心電図、呼吸を測定開始
- 酸素マスクを口にあてる
- 麻酔用の点滴をして、全身麻酔開始
- 事前に点滴用の針を挿しておくこともある
- 全身麻酔中に、(1) 口から呼吸を助けるチューブが気道に入れられる、(2) 導尿管(カテーテル / バルーン)が装着される
- 所要時間は、熟練した医師であれば通常1時間程度
- ウエちゃんは正味45分程度
- 癒着のひどい場合などは数時間かかることもある
- 基本的には、術創(手術痕)を縫合しない開放創手術
- 術後に出血してしまうこともある
- 手術終了後(麻酔から覚めた後)、口のチューブが抜かれたら深呼吸
手術当日:手術後
- 移動: ベッドに寝たまま病室へ移動
- ウエちゃんはナースステーション前にある回復室という病室へ移動
- 食事: 翌朝まで絶飲食を継続
- 処置: 酸素マスクで酸素吸入(3~4時間)、心電図のモニターを装着(翌朝まで)、ネブライザー(夜7時、9時、翌朝7時)、氷嚢でノドを冷やす(鎮痛と出血防止)
- 点滴: 抗生物質など連続投与
- 説明: 執刀医より手術の報告、摘出した扁桃を見せてもらえる
- 安静: ベッド上安静(寝返り可)
- 痰が出たらティッシュで静かに拭いとる(出血してしまう恐れがあるので、力を入れて痰を無理に出そうとしないこと)
- 傷の回復が遅れてしまうので、唾液は吐き出さないこと
- いわゆるエコノミー症候群の予防のため、足首や膝を動かすとよい
- 排泄: 翌朝までベッド上で導尿管(カテーテル)にて排尿
- 入浴: 洗面タオルのみ
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術後1日目(手術翌日)以降
- 検査: 採血、尿検査(術後1日目のみ)
- 服薬: 術後1日目の朝食前から痛み止め服用(毎食30分前、寝る前)、術後3日目から抗生物質
- 食事: 術後1日目朝食から流動食、昼から五分粥、4日目から全粥、6日目からごはん食
- 時間をかけても完食して、口の中の筋肉をしっかり動かすことが回復への近道
- 医師の許可が出るまで、柑橘類(トマトにも注意!)、煎餅・スナック菓子などは禁止
- 定番おやつは、アイスクリーム、プリン、ゼリー、杏仁豆腐、ヨーグルトなど
- 頻度の比較的高い合併症として味覚障害があるが、多くは予後良好
- 処置: うがい(毎食後、寝る前)、ネブライザー(吸入:1日1回)
- 保湿のためにマスクは必須で、ウエちゃんは睡眠時でもマスクを着用
- 点滴: 術後2日目まで抗生物質など(朝夕2回) * 3日目以降は錠剤を内服
- 診察: 主治医または執刀医による経過確認
- 安静: 術後1日目から歩行可(制限なし)
- 排泄: 午前中に導尿管(カテーテル)を抜く、蓄尿を継続
- 術後2日目をピークに血尿が増えるケースが7~8割あるが、それは一過性のものであり、摘出した口蓋扁桃がIgA腎症の病巣であったことの証拠でもある
- 入浴: 術後3日目からシャワー・洗髪OK
退院
- 扁摘した痕の白いかさぶたの経過を数日間観察し、出血がなければ退院可能となる
- ケースバイケースだが、術後7日目前後が多い
- ウエちゃんは術後7日目に退院して、当日そのまま転院してステロイドパルス療法を開始
- 痛み止めは退院後もしばらく継続するケースが多そう
- ウエちゃんは、ステロイド点滴の初日に痛みが和らいで服用をストップ(ステロイドには抗炎症作用があるため)
- デスクワーク系の仕事であれば、即復帰も可能 * ただし、個人差あり
退院時(術後7日目)は、白いかさぶたが残っている状態 |
術後14日目には、かさぶたはほとんど取れていた |