扁摘パルス

「扁摘パルス」=「扁桃摘出」+「ステロイドパルス療法」

  1. 扁桃摘出(約10日間の入院を要する)
  2. ステロイドパルス療法(3日間点滴+4日間内服で1クール:通常は3クール行う)
    • 仙台方式:3クールを3週連続で行う
    • イタリア方式:2ヶ月おきに1クールずつ行う
この2つを組み合わせることから「扁摘パルス」という。必ずしも連続して行う必要はなく、またどちらを先に行っても治療効果に差違はないそうだ。ただし、扁桃摘出を先にした場合には、遅くとも1年以内にステロイドパルス療法を実施する必要がある。逆に、ステロイドパルス療法を先に行った場合には、原則として半年以内に扁桃を摘出すべきとされている。

また、ステロイドパルス療法を先行しておいて、クールとクールの間(例えば、2クール目と3クール目の間)に扁桃摘出を行うといったことも可能のようだ。

「扁摘パルス」は、火事場の消火作業

IgA腎症は腎臓の病気なのに、なぜ扁桃(俗にいう "扁桃腺"、正確には "口蓋扁桃")を摘出する必要があるのか? それは、扁桃がIgA腎症の病巣となっているからである。そして、なぜステロイドをそんなに大量に投与する必要があるのか? それは乱れてしまった免疫システムをリセットするためである。
ウエちゃんによる「IgA腎症」たとえ話
IgA腎症は、腎臓で炎症が起きていることから、よく火事に例えられる。「扁摘パルス」は消火作業みたいなものだ。
  1. 火事の火種を特定して除去する
    (=扁桃を摘出する)
  2. 大量の放水で消火する
    (=ステロイドを大量に点滴する×3日間:1クール目)
  3. 水を弱めて消化状況を確認する
    (=ステロイドの錠剤を内服する×4日間:1クール目)
    • イタリア方式の場合は、ここで2ヶ月間のインターバルが入る
  4. さらに、大量の放水で消火する
    (=ステロイドを大量に点滴する×3日間:2クール目)
  5. 改めて、水を弱めて消化状況を確認する
    (=ステロイドの錠剤を内服する×4日間:2クール目)
    • イタリア方式の場合は、ここで2ヶ月間のインターバルが入る
  6. もう一度、大量の放水で消火する
    (=ステロイドを大量に点滴する×3日間:3クール目)
  7. 水を弱めて消化状況の最終確認をする
    (=ステロイドの錠剤を内服する×4日間:3クール目)
そして、3クール目を終えた時点で完全に消火できた場合、つまりそれは寛解したことを意味するので、ステロイド錠剤の内服は不要となることもある。が、多くの場合は、そのままステロイド錠剤の内服を継続していくことになり、約1年間かけて量を減らしていきながら経過観察をするのが標準的なパターンのようだ。


扁摘パルスの治療効果を裏付ける研究データが続々

この扁摘パルスだが、実はこれまで「やれば効果がわかる治療法」という見方をされてきた経緯がある。しかし、2011年に次の2つの発表がされたことにより、ようやく「エビデンス(科学的根拠)のある治療」として認知されようとしている。

有意差を証明した国内初のランダム比較研究
まず前者は、厚生労働省の進行性腎疾患に関する調査研究班・IgA腎症分化会が主体となって行ったもので、第54回日本腎臓学会で発表された。
具体的には全国から同意が得られたIgA腎症の患者さん80名をランダム(無作為)に扁摘パルス群(40名)とパルス単独群(40名)に分けてその後の経過の違いを比較したというものです。結果は、一年という短い観察期間にもかかわらず扁摘パルス治療群がパルス単独治療群に比べて統計学的有意差をもって寛解率が高かったという画期的なものでした。(引用元:「扁摘パルスRCTで有意差あり」第54回日本腎臓学会速報|DR.HOTTAのコラム

国際的な学術誌に掲載された海外の研究者による論文
そして後者は、世界を代表する腎臓病関連の学術誌の一つである『NDT(Nephrology Dialysis Transplantation)』(オックスフォード・ジャーナル)に掲載された中国人医師による論文。これまでの扁摘パルス治療に関する報告を分析してまとめられたもので、他の治療法と比較した際には扁摘パルスの寛解率が高いことを裏付けているという。
この論文では、データベースから扁摘パルス、扁摘+ステロイド服用、扁摘もステロイドも使用しない従来の治療に関する研究を分析し、扁摘とステロイド(パルスまたは服用)の併用治療で寛解率が有為に高いことを結論づけている。(引用元:扁摘パルス療法の研究結果、国内・外で続々と|慢性腎炎(IgA腎症)ぜったい治したい!)

「扁摘パルス」はIgA腎症治療の "国際標準" へ
これまで「扁摘パルス」は、こうしたランダム化比較試験(RCT)によるエビデンスを重視する欧米では相手にされなかったという。そのため、日本国内でも否定派の病院や医師が少なくなかったらしいのだ。

その結果として、ウエちゃんのように「扁摘パルス」という治療法があること自体を知らずに、十何年もの間ただ経過観察だけを延々と続けている患者もいれば、「扁摘パルス」で寛解を目指したいのに主治医から反対されてしまい途方に暮れる患者("IgA腎症難民")も少なくないという。
しかし、今回のRCTの結果により、この状況は一変すると思われます。つまり、今回のRCTの結果は近い将来、権威ある国際誌に発表され、それをうけて、エビデンスに基づく医療の一環として扁摘パルスがIgA腎症の標準的治療として推奨されるに至り、我が国のIgA腎症難民の数が激減することが予想されます。(引用元:「扁摘パルスRCTで有意差あり」第54回日本腎臓学会速報|DR.HOTTAのコラム

さらに、ここ数年のうちに急速に広がりを見せているWebメディアが加速させるはずだ。例えば、すでに「扁摘パルス」の普及を後押ししているものとして、次のようなものが挙げられる。
  • 扁摘パルスを体験したIgA腎症患者のブログによる情報提供
  • mixiなどの患者コミュニティにおける情報交換
  • twitterで患者などが発信する "リアル" な情報の流通
こうしたWebメディアも含む多様な情報源から、今まさに患者が自分のために最適な治療法の存在を知り、それに見合った病院や医師を選択できる時代になろうとしている気がする。特に、IgA腎症の場合はそうだ。


寛解できるかどうかは、「早期治療×腎機能」で決まる

この「扁摘パルス」によって、IgA腎症を寛解できるかどうかは、次の二つによって可能性(確率)が変わってくることが分かっている:

  • 血尿を最初に指摘されてからの期間の長さ
    • ウエちゃんの場合は、17年が経過(最初の指摘は、1993年の健康診断)
  • 腎機能の低下の度合い
    • ウエちゃんの場合は、正常の80%
  • 比較的早期の段階のIgA腎症ではが高い確率で寛解(血尿ならびに蛋白尿の消失)が得られる
  • 寛解の状態が続いていれば腎機能はその後も維持され、寛解状態が持続するとIgA腎症が根治しうることが確認されている
  • 扁摘パルスで寛解が得られた患者の再発率は6%で、罹病期間が長くなると蛋白尿のみ再発する頻度が高まる
  • 罹病期間が3年以内では、蛋白尿のみの再発は2%で極めて稀である
病態がまだ寛解可能な状態であれば、扁摘パルスを実施することで寛解を目指すことができる。すでに寛解が望めない状態まで腎臓の炎症が進行してしまっていた場合でも、腎炎の進行を遅延させることが可能。

さらに、薬物治療や食事療法などを行ったとしても、もはや腎症の進行を遅らせることも期待できない状態にまでなってしまっていたとしても、腎移植した場合の再発防止のために、病原となる扁桃摘出は有効といわれている。

「扁摘パルス」の参考リソース


関連ページ