IgA腎症

毎年約1万人が新たに発症し、10年で約20%、20年で約40%、30年で約50%が透析になる腎臓病

「IgA(アイ・ジー・エー)腎症」は、慢性腎炎の一つ。つまり、腎臓病である。腎臓で血液を濾過して尿を作る糸球体(糸の玉のように見える毛細血管の球)に異常が生じて、赤血球や蛋白の粒子が尿の中に漏れ出して、腎臓の機能が少しずつ低下していく病気だ。

ただ、世間一般にはそれほど知られた病名ではないかもしれない。ウエちゃんも初めてその病名を聞いた時には、頭の中には「?」がいっぱいだった。ここでは、まずIgA腎症という病気を理解するためのポイントをいくつか挙げてみよう。
  • 「慢性糸球体腎炎」という腎臓病の中の一つの疾患である。
  • 腎臓に約100万個ある糸球体が慢性的なくすぶり型の炎症を起こしている状態を「慢性糸球体腎炎」といい、その中で最も多いのがIgA腎症である。
  • 細菌やウイルスから自分の身体を守るための免疫反応だったはずが、扁桃に入った病原菌が原因となって免疫システムに異常が生じてしまい、自分の腎臓の糸球体を攻撃して炎症(血管炎)を起こしている状態が続いている。
  • 糸球体毛細血管の間にあるメサンギウムという部位に免疫グロブリンA(IgA)が沈着するため「IgA腎症」と呼ばれる。
  • 少なく見積もったとしても、日本全国で毎年約1万人が新たに発症しており、稀な病気というわけでもない。
  • 日本は他国と比較して、検診制度(会社や学校の健康診断等)が整備されているため、IgA腎症の早期発見の機会が多く、日本人のIgA腎症の約70%は健康診断の尿検査によって発見されている。
  • IgA腎症は、最初から "慢性" 糸球体腎炎であり、急性の腎炎が慢性化したものではない。
  • 尿検査で必ず潜血が見られる
    • 目で見てわかる血尿は稀で、自覚症状がないため顕微鏡や尿試験紙で調べて初めてわかる。
  • 蛋白尿は、初期のうちは陰性であっても、腎症が進行すると必ず認められる。
  • IgA腎症は、自然寛解する一部の症例を除き、長期的には予後不良とみなすのが今日では妥当な解釈である。
    • 1970年代にはIgA腎症の予後は良好と見なされていたが、1980年代になるとIgA腎症の10年を超える経過が徐々に明らかになり、腎症の予後が必ずしも良好でないことが判明してきた。
  • IgA腎症と診断されてから、10年で約20%、20年で約40%、30年で約50%が末期腎不全に移行して、透析が必要となることが報告されている。
  • 日本では、透析になる原因として二番目に多いのがIgA腎症による末期腎不全である。
    • 一番多いのは、糖尿病性腎症による末期腎不全。
  • 症例によって経過はさまざまだが、活動性の弱い「慢性糸球体腎炎」が数十年の長期にわたってくすぶり続けて、時間をかけて進行することが大半である
    • しかし、わずか数年で腎不全に至ることもあれば、自然に寛解してしまうこともある。
  • IgA腎症に対する診療の方針が地域や医療施設によりまちまちなのが現状で、近年では全国の患者さん同士がWebなどで容易に情報交換ができるため、混乱が生じている一面もある。

IgA腎症は「生涯治らない不治の腎臓病」というのは本当か!?

結論から先に言うと、「完治できない」のはたしかに本当だが、今日では "寛解" が得られるのも事実である。

「腎臓の機能は一度損なわれたら二度と元には戻らない。だから、IgA腎症は完治できない。これから先、腎機能をできるだけ維持していくしかない。腎機能がある一定ラインよりも低下してしまったら、その時点で透析になる。」

これはよく言われること(言われてきたこと)であり、ウエちゃんも発症当初の95年に当時の主治医からそう言われた。しかし、現実は違っていた。扁摘パルス(扁桃摘出とステロイドパルス療法の併用)という治療法によって、IgA腎症は "早期の段階であれば" 寛解が得られる(根治しうる)ことは現在では確固たる事実である。

ただし、IgA腎症がある程度以降の段階にまで進行してしまっていた場合には、寛解・治癒を得ることは残念ながら困難となり、扁摘パルスによる治療の目標はIgA腎症の進行遅延となる。つまり、できるだけ透析を先延ばしにするというのが目標になる。

寛解率は「腎機能」と「発症からの期間」がカギを握る

扁摘パルスによって寛解が得られるかどうかは、ケースバイケースと考えたほうがよさそうだ。ただし、治療開始が早ければ早いほど、より良い結果が得られることが過去のデータから読み取れるのも事実。
  • eGFR 70mL/分/1.73m2以下では腎機能の低下に伴い寛解率は直線的に低下する。
  • 寛解を規定する最も重要な因子は血尿が出現してからの罹病期間であり、扁摘パルスによる治療介入の基本原則は "the earlier, the better" である。
(引用元:扁摘パルスの寛解は何で決まるか? 書籍「IgA腎症の病態と扁摘パルス療法」)

ところで "寛解" ってどういう意味?

ところで、"寛解" というのは耳慣れない言葉だ。ウエちゃんも扁摘パルスという治療法の存在を知ったときに初めて知ったくらいなので、おそらく多くの人にとっても聞きなれない言葉なのではないか。そこで、ウエちゃんが扁摘パルスの治療を受けた仙台社会保険病院の腎センターのサイトから一部引用してみる。
仙台社会保険病院腎センターではIgA腎症の根治・寛解を目指し、1988年からこれまで500例以上のIgA腎症の患者さんに、口蓋扁桃摘出術(扁摘)+ステロイドパルス療法を実施しています。すでに腎機能が著しく低下した進行した症例(厚生労働省分類:予後不良群)では寛解(血尿ならびに蛋白尿の消失)の可能性は残念ながらあまり期待できませんが、比較的早期の段階のIgA腎症では高率に寛解が得られます。寛解の状態が続いていれば腎機能はその後も維持されます。また寛解の状態が5年以上続いている患者さんの一部におこなった2回目の腎生検では、糸球体毛細血管の炎症は消失し、メサンギウムの増殖も軽減ないしは消失しており、寛解状態が持続するとIgA腎症が根治しうることを確認しています。(引用元:IgA腎症の根治・寛解をめざした治療|仙台社会保険病院

つまり、IgA腎症の場合、"寛解" というのは「糸球体毛細血管の炎症が消失したことによって、血尿ならびに蛋白尿が消失した状態」のことを指す。ただし、すでに失われてしまった腎機能までが回復するわけではないので、"完治" とは言わないのだ。

IgA腎症の発症原因は「病巣感染」と「生活習慣」にある

さて、ではいったい何が原因でIgA腎症になるのだろうか? 実は、医学的にはまだきちんと解明されていないのが現状だ。しかし、IgA腎症発症のメカニズムとしては、「病巣感染」が根本原因であると考えられている。
病巣感染は「身体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か、わずかな症状を呈するにすぎないが、遠隔の諸臓器に反応性の器質的な病変ないしは機能的な障害を生じる病像」と定義される。(引用元: 慢性免疫病の根本治療に挑む(著・堀田 修|悠飛社)
つまり、身体のどこかにある慢性的な炎症が病巣となって、そことは離れた場所にある臓器に異常が生じるというわけだ。IgA腎症の場合には、もちろん腎臓に何らかの異常が生じることになる。では、具体的にどのような慢性的な炎症が病巣になっていると考えられるのか。

IgA腎症の「病巣感染」である四つの慢性的な炎症

IgA腎症の病巣感染として知られているのは次の四つである:
  • 慢性扁桃炎:IgA腎症患者の口蓋扁桃には炎症があるというのは、もはや定説。扁桃摘出後に遺残扁桃があると、一度寛解した場合であってもIgA腎症が再発することがある。
    • ウエちゃんの場合:自覚はなかったが、2011年1月に耳鼻咽喉科の診療にて口蓋扁桃が腫れている、膿があると診断された。2011年6月、口蓋扁桃を摘出。
  • 虫歯・歯周病・根尖性歯周囲炎:鼻以外に、歯の炎症も病巣の一つであり、虫歯の治療も重要である。
    • ウエちゃんの場合:数十年くらい歯科検診を受けていなかったが、2011年2月に歯科ドックを受診。虫歯が7本、ごく軽度の歯周病であることが判明。同年5月までに虫歯の治療を完了。
  • 副鼻腔炎(ちくのう症):自覚症状がなくても治療が必要。いつも鼻声の場合は要注意だとか。
    • ウエちゃんの場合:2010年12月のCT検査の結果、異常なし
  • 上咽頭炎(鼻咽腔炎):IgA腎症病巣感染として、慢性扁桃炎と双璧をなす重要な慢性の感染。
    • ウエちゃんの場合:耳鼻咽喉科にて鼻咽腔に炎症があるとの診断を受け、2011年1月から鼻洗浄(鼻うがい)を開始
中でも、口蓋扁桃はIgA腎症の病巣の代表格として考えられており、最近では口蓋扁桃を摘出することの効果がランダム化比較試験の結果によってデータとして証明されつつある。

IgA腎症が発症するメカニズムは、これらの病巣感染が根本原因となって、それによって免疫異常が生じ、慢性免疫病(つまり、IgA腎症)に至るというプロセスを経る。さらに、次に挙げるような誤った生活習慣も相まって、このプロセスが加速していくという。

IgA腎症を誘発または悪化させる「生活習慣」

先に紹介した「病巣感染」の多くも自覚症状がないため厄介なのだが、"誤った" 生活習慣というのもまた自分では普段気づきづらいものだ。しかし、そういった生活習慣もIgA腎症とは無関係ではないと考えられているの。この機会にセルフチェックをしてみるとよいかもしれない。
  • ストレス:慢性免疫病を発症させる要因の一つ。
    • ウエちゃんの場合:いわゆるサラリーマンではないこともあってか、本人としてはあまり自覚がない
  • 口呼吸:鼻でろ過されずに、病原菌が直接咽頭に入ってくるため、免疫システムの処理能力を超えてしまうと免疫異常を生じる。
    • ウエちゃんの場合:自覚はなかったものの、堀田医師にズバリ指摘された。歯並びとあごを見れば分かるらしい。「あいうべ」体操、よく噛むこと、口閉じテープなどで改善。
  • 喫煙:喫煙者の多くが慢性のひどい上咽頭炎を患っており、喫煙はその病的な炎症を悪化させる。また、喫煙者は扁摘パルス後でも血尿が消えないケースが多い。
    • ウエちゃんの場合:仙台社会保険病院に転院するまで、主治医には止められていなかったこともあり、IgA腎症発症後も20年近く吸ってました...、2010年11月下旬から禁煙
  • 睡眠不足
    • ウエちゃんの場合:仕事でたまに徹夜してしまうこともある。できるだけしっかり寝よう
  • 冷飲食:体温の低下は身体に様々な悪影響を及ぼし、新陳代謝が落ち、免疫力が低下する。
    • ウエちゃんの場合:風呂上がりにアイスを食べるのが日課だった...。これも12月くらいから控えている
  • よく噛まない:口輪筋が衰えて口呼吸になりやすくなり、口腔内が感染して虫歯や歯周病の原因にもなる。
    • ウエちゃんの場合:典型的な早食い&ゴリ食いだった。一口30回噛むように意識しながら矯正中...。
という感じで、ウエちゃんの場合には思い当たるフシが少なくなかったのである。こういった "誤った" 生活習慣は、扁摘パルスによって寛解した後も心がけることが重要だとされている。それによって再発を防ぐことができるからだ。

IgA腎症はどのように進行していくのか?

IgA腎症治療の第一人者である堀田 修医師が運営する「IgA腎症・根治治療ネットワーク」のサイトでは、少し専門的な用語も用いながら次のように説明している:
  • 少しずつ一部の糸球体が時間をかけ廃絶していくため、時間が経過するにつれて、廃絶した糸球体が増えて、残っている糸球体の数が少なくなる
  • 腎症が進行して糸球体の数が減ると、生き残っている糸球体にそれだけ過剰な負荷がかかるようになり、糸球体の数が減れば減るほど残った糸球体はつぶれやすくなる
  • 腎症が進行すると複数の進行因子が複合的に作用し、腎症の悪化を促進する
  • IgA腎症の腎機能の低下速度は一般的に、始めのうちは緩徐だが、途中から加速する
  • 通常のIgA腎症はくすぶり型糸球体毛細血管炎が数十年にわたり継続し、進行に伴い高血圧や蛋白尿の程度が強くなる

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