IgA腎症であることを確定するために不可欠な「腎生検」
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入院日から退院日までのスケジュール表 |
健康診断の尿検査で潜血が陽性となった場合(もちろん、蛋白も陽性の場合も含めて)、「要再検査」となるはず。そして、このIgA腎症であることが疑われる。しかし、IgA腎症であると診断(確定)するためには、腎生検といって、腎臓に針を刺して腎組織の一部を採取して顕微鏡で評価する検査をしなければならない。ちなみに、腎生検は、蛋白尿、血尿、または腎機能の低下が認められる場合に、最も適切な治療法を決定するために行われるので、IgA腎症だけに限られた検査ではない。
尿検査や血液検査、あるいは蓄尿検査、レントゲン検査などによっても、腎臓のことはある程度判るらしい。しかし、腎臓の組織を顕微鏡で検査しなければ(つまり、腎生検を行わなければ)、その病名や病状、活動性などを正確に知ることは、専門医でも不可能だとされている。
ウエちゃんが仙台社会保険病院で受けた事前の説明によると、腎生検の一般的な目的は次の三つ:
- 腎臓の組織から正確な組織診断を得ること。
- 病気の予後(見通し)を予測すること。
- 適切な治療法を決定すること。
つまり、「腎生検」なくして、「扁摘パルス」はありえないのだ。そして、そもそも「腎生検」をしていない状態では、IgA腎症かどうかさえ定かではないことになる。まとめると、IgA腎症の場合には、次のようなプロセスになる。
- 健康診断などの尿検査で血尿が認められる
- 検査入院して「腎生検」を行う
- 腎生検の結果、「IgA腎症」と診断される
- 「扁摘パルス」で寛解を目指す
腎生検には「針腎生検」と「開放性腎生検」の二通りがある
実は、腎生検には二通りの方法がある。簡単に言うと、局所麻酔だけで針をパチンと刺す「針腎生検」と全身麻酔でメスを入れる「開放性腎生検」の二つ。といっても、どちらかを選べるわけではなく、基本的には病院によってどちらの方法でやるかは決まっているようだ。針腎生検 | 開放性腎生検 | |
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検査の場所 | 病棟 or 検査室 | 手術室 |
麻酔 | 局所麻酔 | 全身麻酔 |
検査後出血の危険 | 約2% | 2%未満 |
輸血の危険 | 約0.2% | 0.2%未満 |
メリット | 跡がほとんど残らない | より確実に組織を採取できる より確実に止血できる 絶対安静中も寝返り可! |
デメリット | 翌朝まで絶対安静(寝返り不可) | メスを入れた痕が残る |
おそらく、ほとんどのIgA腎症患者の皆さんが経験されているのは、針腎生検のほう。ウエちゃんも、1995年3月に初めて腎生検をやったときは、この針腎生検だった。そして、2010年12月に仙台社会保険病院でやった二回目のときは、開放性腎生検だった。
両者の具体的な内容や違いを知りたい方は、以下のリンクやウエちゃんが実際に2010年12月に腎生検で入院した際のエントリーをご参考に:
腎生検の流れ(開放性腎生検の場合)
では、ウエちゃんが体験した開放性腎生検をもとにして、実際の流れを紹介してみよう。腎生検1週間前
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手術1週間前から休薬すべき薬剤の一覧 |
- 術前中止薬: 抗血栓薬、抗血小板凝集薬などの血液をサラサラにする薬を休薬。手術中に出血がコントロールできなくなる恐れがあるため。
- ウエちゃんの場合:コメリアン錠が該当したので中止。
- これは針腎生検でも同じ。
入院日:手術前日
- 診察: 主治医による手術の説明、麻酔科医師による診察と説明
- 検査: 採血、採尿、血圧、心電図、肺活量、胸部レントゲン
- 食事制限: 前日21時以降絶飲食(水は当日の3時間前までOK)
- 安静度: 特に制限なし
- 入浴: 制限なし、前日は必ず入浴(抜糸翌日まで入浴不可のため)
- トイレ: すべて蓄尿
蓄尿する際は自動蓄尿装置を使用 - その他: 身長・体重測定(入院時)、血圧・体温(6時、14時)、体重(6時)
手術当日:手術前
- 測定:血圧、体重、体温
- 食事制限: 手術開始3時間前まで水はOK、それ以降は完全に絶飲食
- 安静度: 特に制限なし
- トイレ: すべて蓄尿
- 点滴: 手術開始1時間前から点滴
- その他: 点滴開始前に浴衣に着替え、下着はパンツのみ着用
病院の浴衣はシンプル
手術
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全身麻酔の流れと注意点が時系列でわかりやすく説明された資料 |
- 病棟の担当看護師と一緒に歩いて手術室へ移動
- ベッドに仰向けになり、名前をネームバンドで、手術部位を口頭で確認
- 仙台社会保険病院では、手術前に手のひらに自分で名前をフルネームで書く
- 血圧計・心電図・酸素モニターを装着し、口には酸素マスクをあてる
- 点滴から麻酔薬が入り、意識がなくなると導尿管(カテーテル)が入れられ、口には呼吸を助けるためのチューブが入れられる
- 手術開始!
- 開放性腎生検では、わき腹(ウエストの位置)をメスで3~5センチ切って、腎臓から組織を採取する
- そして、麻酔から覚めたときには、すでに手術は終わっている(ホントにあっという間!)
- 口からチューブが抜かれたら、深呼吸をゆっくり繰り返す
- ストレッチャーベッドに移されて、そのまま病室へ戻る
- 点滴と酸素マスクはしたまま
- モニター類は外される
- 導尿管は翌朝まで入ったまま
手術当日~術後1日目朝:手術後
- 安静度: ベッド上安静(翌日朝まで)
- 食事: 当日の夕食と翌日の朝食は、おにぎり(寝たまま、横を向いて食事)
病院売店で売っているペットボトルのキャップ専用ストローが重宝する - 点滴: 抗生物質、生理食塩水など
- トイレ: 導尿管で排尿
術後1日目(昼以降)
- 安静度:最小限のトイレ、洗面のみ歩行可
- ウエちゃんの場合:朝食後の主治医による回診の後に安静解除となり、導尿管を抜いてもらった
- 食事: 昼食から通常食
- トイレ: 安静解除後、すべて蓄尿
- 入浴: 不可
- 点滴: 抗生物質
- 処置: ガーゼ交換
抜糸前の手術痕
術後2日目~退院日
- 安静度:歩行は自由、ただし階段不可(階段は抜糸後からOK)
- 食事: 通常食
- トイレ: すべて蓄尿
- 入浴: 不可(抜糸翌日から入浴可)
- 点滴: 抗生物質
- 処置: ガーゼ交換、抜糸(術後7日目)
抜糸後の手術痕には傷口を完全に塞ぐためのテープが貼られたが、日にちが経つと自然と剥がれてくる
抜糸から半年経った後の手術痕 だいぶ目立たなくなってきた
ウエちゃんの体験記
約一週間後に診断結果 それをもとに治療計画作成
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ウエちゃんの場合は、腎生検の結果と今後の治療法を主治医が手書きで説明 |
腎生検の結果、糸球体毛細血管の間にあるメサンギウムという部位に免疫グロブリンA(IgA)が沈着していれば「IgA腎症」であると診断される。日本の国内では、腎生検の所見から次の4群に分類することが従来行われてきており、予後の予測と治療方針の決定に用いられている。なお、この分類は、経過観察中に他の群に移行することもあるという。
- 予後良好群:透析療法に至る可能性がほとんどないもの。
- 予後比較的良好群:透析療法に至る可能性が低いもの。
- 予後比較的不良群:5年以上・20年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。
- 予後不良群:5年以内に透析療法に移行する可能性があるもの。
厚生省特定疾患進行性腎障害調査研究斑
社団法人日本腎臓学会 合同委員会『IgA 腎症診療指針』より引用
ただし、扁摘パルスによる根治治療が可能となっている今、特に扁摘パルスを実施している医療機関の現場では、この分類自体にはあまり意味がないという意見も上がってきているようだ。それよりも、腎機能がどの程度低下しているか、発症から何年経過しているか、といった点に着目すべきなのかもしれない。
実際に、ウエちゃんが腎生検を行った仙台社会保険病院では、この分類を用いた説明はなかった。
ウエちゃんは、仙台社会保険病院での腎生検の結果、改めて「IgA腎症」であることが確認され、腎機能が約80%あることから "寛解" を目指して扁摘パルスによる治療を行うことが決定。
関連ページ
- IgA腎症とは
- 扁摘パルスとは
- 扁桃摘出
- ウエちゃんの体験記:入院(扁桃摘出)1日目: いよいよ明日扁桃を摘出
- ステロイドパルス療法