ステロイドパルス療法

ステロイドパルス療法とは


写真:ステロイドを点滴している左腕

「扁摘パルス」の "パルス" にあたるのが「ステロイドパルス療法」。乱れてしまった免疫システムをリセットするとともに、腎臓でくすぶっている炎症を鎮めるためにステロイドを投与する。

IgA腎症は、くすぶり続けている火事によく例えられる。腎臓を火災現場とすれば、ステロイドパルス療法は消火作業。ホースで大量に放水して消火しながら、時に水の量を控えめにして鎮火状況を確認し、また大量に放水してはチェックしてというのを繰り返すというわけだ。

ステロイドパルス療法の内容


写真:ベッドに掲げられている入院中の検査内容と注意事項

ステロイドパルス療法の具体的な実施方法は、実施する病院等によって異なるようだが、標準的な方法とされているのは次のようなものである。
  • ステロイド剤の点滴を3日連続で行い、続けてステロイド錠を4日連続で内服し、その1週間を1クールとする。
  • 扁桃を摘出した後は、ステロイドパルス療法を開始するまでの間隔は、原則として1週間以上空ける。
    • ステロイドには抗炎症作用があるので、扁摘後の痛みも緩和されることがある。
  • 原則として3クール行うが、ケースバイケースで減らす場合もあれば、追加する場合もある。
    • 3週連続で3クール行うのを仙台方式、2ヶ月おきに1クールずつ行うのをイタリア方式とよぶ。
  • 原則としてステロイドパルス療法は入院で行う。ただし、1クール目で副作用等の問題がない場合は、2クール目以降を外来で行うことも可能。
  • 不眠、動悸、ほてり感などの交感神経過剰刺激による副作用は、1クール目に最も顕著に出るため、1クール目の注意深い観察が重要である。
  • 特に、点滴をした日の食後には、血糖値が高くなるため注意が必要である。
  • 退院後は、30mgの内服を開始。その後、2ヶ月ごとに次のように徐々に内服する量を5mgずつ減量していき、1年間で治療を終了するのが基本。ただし、経過次第では内服量が増減したり、期間が長くなったり短くなったりすることがある。また、途中で寛解した場合は、その時点から内服する量を急速に減量させる。
    1. 30mg 隔日で内服:2ヶ月間
    2. 25mg 隔日で内服:2ヶ月間
    3. 20mg 隔日で内服:2ヶ月間
    4. 15mg 隔日で内服:2ヶ月間
    5. 10mg 隔日で内服:2ヶ月間
    6. 5mg 隔日で内服:2ヶ月間
  • 入院期間中に(3クールのステロイドパルス療法だけで)寛解するケースもあり、その場合は退院後の内服は不要となる。

ステロイドパルス療法の基本的な流れ

ここでは、実際にウエちゃんが体験した内容をもとにして流れを追ってみよう。

写真:ステロイドパルス入院計画表

入院初日(ステロイドパルス療法開始前)
  • 主治医による治療内容および副作用に説明
  • 検査:採血、心電図、胸部レントゲン
    • ウエちゃんは、初日のステロイド点滴中に心電図測定とレントゲン検査 ;-)
  • 測定:身長・体重の測定、血糖値、血圧・脈拍・体温のチェック
1クール目:点滴 - 3日間
  • 点滴:デカコート注射用 500mg(副腎皮質ホルモン)+フィシザルツPL-D 100ml(生理食塩水)

    写真:デカコート注射用 500mgの容器は直径2cm 高さ4cmくらいの小さい容器
    人間が一日に体内で作る量(5mg)の100倍のステロイドを点滴する

    写真:点滴の針を挿したままの前腕
    点滴期間中は針を挿したまま

    写真:注射器で生理食塩水を注入している様子
    再開時には生理食塩水を注入してから点滴の管をつなぐ

    点滴の "針"といっても、実はプラスチック。針は最初に挿すときだけ付いているが、血管に入った後に針だけ抜かれて、血管にはプラスチックの管だけが残るそうだ。長さにして約3センチくらいが血管の中に入った状態になる。

  • 内服:オメプラール錠 10mg(朝食後1錠 - 胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎を和らげる)、ニューロタン錠 25mg(朝食後1錠 - 常用薬。血管を拡げて、血圧を下げる)
  • 検査:採尿、採血、24時間クレアチニンクリアランス
    • ウエちゃんは、毎朝採尿、採血は各クール1日目に1回ずつ。24時間クレアチニンクリアランスは2日目の朝から24時間。
  • 測定:血圧・体温(6時 / 14時)、体重(6時)、血糖(14時)

    写真:血糖を測る様子
    血糖を測定するときは、指先をボールペンのような器具を使ってペン先から針でパチンと刺し、ゴマ粒大の採血をする

    写真:血糖値を測定する装置
    青いヘラ状の先に血液を吸い込ませると、数秒で血糖値が表示される
  • 食事・水分制限:症状による。
    • ウエちゃんは、食事制限のない常食、水分制限なし。
  • 安静度:制限なし(ただし、点滴中はベッド上で過ごすこと)
  • 入浴:制限なし
  • 感染防止:マスク着用、うがい励行
  • 蓄尿:毎日すべての尿

    写真:自動尿量測定装置
    腎臓病の入院病棟のマストアイテムの一つ、自動尿量測定装置。これは液晶タッチパネル画面で、その場で尿量と尿比重が画面に表示される新しいバージョン(?)
1クール目:錠剤内服 - 4日間
  • 点滴:なし
  • 内服:プレドニン錠 30mg(朝食後 5mg×6錠 - 副腎皮質ホルモンで、炎症やアレルギー症状を抑える)、オメプラール錠 10mg(朝食後1錠 - 胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎を和らげる)、ニューロタン錠 25mg(朝食後1錠 - 常用薬。血管を拡げて、血圧を下げる)

    写真:ステロイド錠剤
    プレドニン錠は1錠が5mg。大きさは直径5mmくらいで小粒。人間は、この1錠分の副腎皮質ホルモンを毎日自分で体内で作っている。
  • 検査:採尿、採血
    • ウエちゃんは、毎朝採尿。採血は不定期。
  • 測定:血圧・体温(6時 / 14時)、体重(6時)、血糖(14時)
  • 食事・水分制限:症状による。
    • ウエちゃんは、食事制限のない常食、水分制限なし。
  • 安静度:制限なし
  • 入浴:制限なし
  • 感染防止:マスク着用、うがい励行
  • 蓄尿:毎日すべての尿
2クール目以降
  • 基本的には、1クール目の点滴(3日間)と錠剤内服(4日間)の繰り返し
    • ただし、3クール目の点滴終了後から錠剤内服は隔日となる
  • IgA腎症の治療の場合には、通常は3クールで終わる

やはり気になるのはステロイドの副作用


写真:ステロイドパルス療法に関する説明書

何と言っても気になるのは、ステロイドの副作用だろう。扁桃摘出と同じで、ネット上にはさまざまな体験談や情報が溢れている。ただ、そんなに心配するほどでもないのかもしれない。というのが、説明を受けた後の率直な感想。ステロイドは、もともとホルモンの一種。人間は普段から体内で毎日5mg作っており、作っては使うを繰り返しているそうだ。

副作用に関しては、ウエちゃんは主治医だけでなく、担当看護師と薬剤師からも説明を受けた。主な副作用を整理しておこう。
  1. 感染症(かかりやすい、治りにくい、重症化しやすい):マスク着用、手洗い、うがいなどで予防
    • ウエちゃんの場合、マスクを就寝時も含めて24時間装着して対処。
  2. 消化管(胃・十二指腸)潰瘍: 粘膜保護の薬を内服して予防
    • ウエちゃんの場合、オメプラール錠を処方してもらい予防。
  3. 高血糖(糖尿病になるケースもある):血糖値が最も高くなる14時に毎日測定。必要に応じて、インスリン注射。
    • ウエちゃんの場合、血糖値が "400" を超えたらインスリン注射を打つ指示が出ていた(ただし、その目安となる数値は患者個々により異なる)。
    • 血糖値を抑制するには、食後の軽い運動が効果的。ただし、ウエちゃんの場合、1クール目は副作用の様子を見るために、あえて運動は控えて数値を確認した。
    • ウエちゃんの場合、1クール目に若干高めになる傾向が見てとれたため、血糖を下げる薬(ジャヌビア錠)を処方してもらってコントロール。
  4. 食欲増進(体重増加):病院食で管理
    • ウエちゃんの場合、食事制限のない常食だったこともあり、さほど空腹感に悩まされることはなかった。
  5. 交感神経優位(気分高揚、夜眠れない、動悸、汗、ほてり、などの自覚症状あり):不眠になった場合は眠剤を投与
    • ウエちゃんの場合、不眠がひどく、入眠剤(マイスリー錠)を処方してもらってコントロール。それでも、平均すれば4時間程度の睡眠。
  6. しゃっくり: 夜中まで続くことがあり、男性に多い傾向がある。
  7. 汗疹(あせも)/アクネ(吹き出物): 顔、胸や背中などにできることがある。
    • ウエちゃんの場合、肩、上腕、胸、背中あたりにできた。ローション(アクアチムローション)と抗生物質(ミノマイシン錠)を処方してもらい対処。
  8. うつ病・躁(そう)状態: 元々その傾向があると悪化する可能性があり
    • ウエちゃんの場合、該当せず。
  9. 白内障・緑内障: 持病のある人は悪化する恐れあり。
    • ウエちゃんの場合、該当せず。
  10. ナトリウム(塩分)貯留:体内に貯め込んでしまうことがある
    • ウエちゃんの場合、該当せず。
結果として、ウエちゃんの場合は大した副作用はなかったといえる。自覚した副作用を気になったものから順に挙げるとすると、「不眠」、「汗疹(あせも)」、そして「高血糖」の三つ。しかし、どれも不快に感じるほどのものではなく、事前に覚悟していたほどではなかったというのが正直な感想だ。

「ステロイドパルス療法」の参考リソース

IgA腎症根治治療ネットワーク
ウエちゃんの体験談(このブログより)

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