その3: 扁摘パルスを決意|16年目までの経緯

情報がWeb上にあふれている

Googleで「IgA腎症」、「扁桃」、「ステロイド」などのキーワードで検索すると、実に多くの情報があふれていた。実際に「扁摘パルス」という治療法を体験した患者さんたちのブログもたくさん見つかった。mixiにもIgA腎症のコミュニティがあり、患者さん同士での情報交換が行われていた。

話を総合すると、IgA腎症は以前は "一生治らない病気" とされていたが、近年では "(早期であれば)治る病気" に変わってきているようだ。普段、Web関連の仕事をしていながら、考えてみたら自分の持病である「IgA腎症」について、GoogleやYahoo!で検索したことはそれまで一度もなかった。結果論だが、もっと早く検索していれば、IgA腎症をとりまく状況の変化に気づけていたかもしれない。

IgA腎症は、 "寛解"、そして "根治できる" 病気

多くのブログなどでは、「寛解」という馴染みのない言葉がよく使われている。「寛解」とは、IgA腎症患者に見られる血尿および蛋白尿が消失することを指す言葉らしい。比較的早期の段階のIgA腎症では、高い確率でこの「寛解」という状態になりうる、つまりIgA腎症が治るという意味のようだ。約20人に1人は再発してしまうことがあるため、「完治」ではなく「寛解」というようだが、寛解状態が持続すればIgA腎症は根治しうることが確認されているという。

IgA腎症を寛解にする治療法が「扁摘パルス」

では、IgA腎症を寛解にする「扁摘パルス」というのはどういう治療法なのか? 簡単に言うと、
  1. IgA腎症の病巣とされる扁桃を摘出する
  2. ステロイドパルス療法後に、半年から一年程度、経口ステロイド剤を服用する
というものだ。入院を要する期間は、扁摘が10日間、ステロイドパルス療法が約3週間で、続けて行えば、約1カ月間の入院となる。

正直なところ、最初は「なぜ扁桃腺を摘出しなければいけないのか?」、「ステロイドって副作用もあってリスクがあるんじゃないのか?」と思った。しかし、いろいろ調べたり、いろいろなブログを読んだりしていく中で、そういった疑問は徐々に解決していった。どうやら、IgA腎症は、治すことができる病気に "変わってきている" ようだ。

しかし、腎機能の低下が進んでいたり、発症から時間が経過していたりすると、寛解率が下がるというのが気になる。果たして、自分はまだ間に合うのだろうか?

「扁摘パルス」という療法を考案した医師

そうやって「IgA腎症」や「扁摘パルス」について調べていると、自ずとある一人の医師の名前が出てくる。

堀田 修(仙台社会保険病院)

この堀田先生こそが、1988年にIgA腎症の根治治療法として扁摘パルスという療法を考案した医師。"Web"でいうと、ティム・バーナーズ=リーのような存在なのだろう。IgA腎症・根治治療ネットワークの代表として、扁摘パルスに関する非営利目的の情報発信を行い、その普及につとめている。

果たして、自分も「寛解」できるのだろうか?

とはいえ、扁摘パルスは、決して万能ではない。比較的早期であれば、「寛解」の可能性も高いが、そうでなければ「寛解」に至る確率は低くなる。自分の場合は、すでに15年以上が経過している。年数だけを見れば、もう間に合わないかもしれない。

最悪もう間に合わなかったとしても、いつになるか分からないが、人工透析になるまでの時間を引き延ばせるかもしれない。もし、すでに間に合わなくて人工透析になるのを待つことが確定したとしても、第一人者である堀田先生に診察していただいた結果であれば、改めて自分の運命だと思って諦めもつくだろうと次第に考えるようになった。

『あとで後悔をすることになるなら、やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい』。 自分のモットーをそのまま実践しよう。

堀田先生にコンタクトして、仙台へ

堀田先生は現在(2010年11月時点)、仙台社会保険病院(宮城県仙台市)だけでなく、大久保病院(東京都新宿区)、成田記念病院(愛知県豊橋市)でもIgA腎症の専門外来をやっている。都内でも診察してもらえるなら、この堀田先生に診てもらいたいと単純に思った。しかし、大久保病院の患者さんのブログによると、大久保病院は予約が3ヶ月待ちのようだ。間に合うかどうかもわからないのだ。ほ3ヶ月も待てない。ならば、堀田先生の本拠地でもある仙台まで行くか。

いろいろなブログを読みあさっていると、堀田先生が運営されているIgA腎症・根治治療ネットワークのウェブサイトから、直接堀田先生に相談メールを送ることができるという情報をキャッチ。そこで、最近の検査結果の数値などを示しながら、是非とも堀田先生に診察していただきたい旨を書いて送ってみた。

すると、すぐに堀田先生ご本人から返事が届いた。「15時~17時の間に仙台社会保険病院の腎外来に電話して予約してみてください」とのことで、電話番号まで教えていただいた。早速その翌日に電話してみると、運良く翌週に予約できた。そして、神頼みというか、藁にもすがるような気持ちで、仙台へ向かうことになる。(「その4: 仙台社会保険病院へ転院」につづく)